向井秀徳・三栖一明&永戸鉄也トークショウ(2002年9月11日)
9/11に経堂アペルの2階、ギャラリースペースにて、向井秀徳(ナンバーガール)三栖一明(グラフィックデザイナー)永戸鉄也(イラストレーター)の3人によるトークショウが行われました。(敬称略)

決して広くない会場には40人程度お客さんが入り、熱気に包まれていました。

左写真:トーク中の一コマ。熱心に話に聞き入るお客さん。なんだか教室で授業を聞いているようなトークショウ。一番左は進行役のアペルの高橋さん。

※以下トークショウの内容を簡単にまとめたものです。このトークショウの模様はアペルが不定期で発行している小冊子に掲載される予定らしいので、ちゃんとまとまったトークショウの内容はそちらをどうぞ。

トーク開始。向井秀徳イラストのルーツ
永戸氏、向井氏、三栖氏の紹介の後、まずはナンバーガールのグラフィックにまつわる話から。向井氏の幼少のころのマンガ体験など。向井氏は小学生の頃、マンガを描いていた。そのなかの一つのタイトルは「要塞教室」。学校に荒くれ軍団が来て、生徒達が立ち向かう、という話の表紙だけを描いたという。ちなみに「要塞教室」はジョン・カーペンター監督の「要塞警察」から引用されたもの。他のタイトルは「ムカイマン」など。当時からオールドスクールを求めていた向井少年は手塚治虫、楳図かずおなどがお気に入りだった。マンガを読んだり、描いていたのは小学生の時までで、ナンバーガールを始める時に「ナンバーガールを人に伝えるための手段」としてまた絵を描き始めた。

全共闘のニオイ。高校時代。
高橋:「向井さんの描く絵は全共闘のニオイがしますよね」
向井:「思想とかはよくわからないけれど、高校生の時に学生運動のノリに憧れたことがありますね」
向井氏は高校の体育祭で各自がハッピを作る時に「今考えるとせつなくなるくらい痛々しい」ことをハッピに書いていたという。
高橋:「それはなんて書いたんですか?」
向井:「原発反対(笑)」
向井:「しかもみんな気合い入れてキレイに書くのに俺だけ体育祭の当日ペンキでンキで慌てて描いたんですよ」
三栖:「それで乾いてなくて、『原発反対』がタラーってなってましたね(笑)」
他、高校時代のエピソードは4steelstringsの三栖さんのインタビューをどうぞ。
教室で向井氏が踊っていたのはブレイクダンスで、風見慎吾でブレイクダンスがブームになる以前、8歳年上の兄からハービー・ハンコックを「これからはこれぜ!」と聞かされて踊らされていたのが、持ち芸となったもの。

卒業後、作り始め。
高校を卒業して、受験に失敗し、自宅で宅録をしていた向井氏はバイクの免許を取り、三栖さん宅へ勝手に上がっては、寝ている三栖さんをたたき起こして出来上がった曲を聴かせたりしていた。向井&三栖で初めて一緒に物を作ったのは「リリースすると想定してジャケットを作ってみよう」と言って作った架空のジャケット。友人「よしひろ」の写真を使って、そのとき向井氏が作っていた「甘い生活」や「テキサスチェーンソウ殺人事件」などの曲のジャケットを作った。

永戸鉄也さんの成り立ち。
今回第一部で展示されている作品は展覧会のために作られたものではなくて、今まで作った作品が飾られている。
永戸さんには4歳のとき、25歳で白血病で亡くなった叔父さんがおり、その建築家でクリエイティブなおじさんの意志を継ごうと思い、なにかやらなければという使命感を感じて絵を始めたという。
中学生くらいから音楽に目覚めて、最初は「音楽の消えてなくなる感じ」に憧れ、ミュージシャンになりたかったが、絵を選び、最終的には音楽的なものを表現できたらいいなというところに行き着いた。
永戸さんはスケートボードを高校の時にやっており、アメリカの文化を自分たちのものだと思っている環境に疑問を感じ、実際に体感しようとアメリカに渡る。グレイトフルデッドを聞き、ヒッピー的な経験をした。トリップ中の体験を持って帰ってくることを目的としていたので、体験をノートに書き残したりしていた。アメリカでいろいろ活動したが、「グレイトフルデッドは自分にとって演歌じゃなかっ
た」という結論に至り日本で仕事を始めようと決め帰国した。


記録交換。
そんな永戸さんの濃いアメリカでの体験話に向井・三栖、両氏大いに聞きいる。
アメリカでの体験を記録したものを、今度読ませて欲しい、と向井氏。
「NUM-HEAVYMETALLIC」制作途中にテンパってドン決まった状態で酒を飲み、酔っぱらったの時の夢を書き留めたものがあるという。
自分の師匠であるサイババがリングの上で戦っている。しかし、サイババは怪物みたいな相手にボコボコにやられ、向井は悲しむ。と、突然サイババが武器を出し、反撃。すごい音を立てて回転する棒「安眠棒」だという。それで相手を打ちのめすサイババ。しかし、その姿は必死でかっこわるい。なんとか相手を倒し、ほっとしたところで目が覚めると、隣のマンションでリフォーム工事中でものすごい騒音を立ててた。
向井:「『安眠棒』っていうのは、俺がもっと安眠したいという心の表れだった(笑)」
しかし、全部ひっくるめて、全部切ない気分になり、書き残した。
向井:「それと永戸さんの記録は近いんじゃないかと思うんですが…」
永戸:「今度、交換しますか(笑)」

クリエイティブと職業意識。
高橋:「みなさんは自分のやっていることは、アートではなく仕事だという意識があるんですか?」
永戸:「ベタですけど、オリジナルということにこだわっていて、どういう職種になれるかというのがありますね。金にならないとダメですから。表現して、お金にして人から評価されるところまでは行きたいです」
三栖:「僕はあんまり物を作ってるときはお客さんのリアクションとかは想像できないし、どれだけ面白いものを作れるかっていうのに集中してますね」
向井:「職業としての意識はありますね。自分だけでなく、他者を面白がらせて初めて自分が気持ちよくなれるっていうのがあります」
高橋:「アマチュアの時からそうですか?」
向井:「それが最初からあるからこそ、東京に来てやったりしてるわけですよ。『俺はコレが面白いと思う。おもしろいやろ?』って言って『うん』って言われて初めて満足しますね」
高橋:「サービス精神ですか?」
向井:「サービスじゃなくて、首根っこ捕まえて『おまえ…、いいって言えよ』っていうようなもんじゃないですかね(笑)」
高橋:「でも捕まえるのが大変ですよね、そのためにアートワークとかがあるんですね」
向井:「まさにそうですね、狩りをするのは自分で捕まえて来なきゃいかん。だれか他の人が捕まえてきてくれて、はいどうぞって出されるってわけじゃないですからね」
高橋:「でも日本のCDジャケットって、有名なデザイナーさんに頼んで何とかしてくださいって頼む傾向がありますよね。欧米のアーティストは『自分たちの音楽があって、それにビジュアルをつけたらこうなった』というものが多いと思うのですが、ナンバーガールはそれに近い物があると思います」

向井・三栖→永戸鉄也。
向井:「永戸さんのビジュアルは日本的なものが全てにあると思いますね。水墨画みたいな感じがするんですよ。永戸さんが物を見て感じて描いたという印象があります」
永戸:「意識して日本的にしてるわけじゃないですけど、この前三栖さんとも話したんだけど、無常観というかそんなのが蔓延してる世の中だから、そういうのは作ってるものの中に入りますね」
向井:「こっちの勝手な感想なんですが昔、チェルシーQでコイツ(三栖さん)がコピーで作ってた感覚にすごい近いものを感じまして、すごい感銘を受けたんですね。『いびつだけど笑かす』みたいな。そこはナンバーガールがやってることもそういうことだと思ってるんですが。なんか…『ウエ〜〜』ってなってるんですけど、それを『見てくださいよ〜〜』っていうんじゃなくて、いびつな気色悪い感じを楽しいポップな感じしてるという。そういうところに共感しますね。」
高橋:「『見てくださいよ〜〜』ってのじゃないっていうのは、結構重要ですよね。見てもらうために作ったので見てください。という人とは違いますよね」
向井:「でもそういう物つくりをしてる人はそういう人じゃないですか。さっきから店長(高橋)、そういう人たちと比べようとしてるところがあると思うんですが、そういう人たちはそういう人たちでいいんですよ」
永戸:「だから、外野なんですよ。僕たちは。」
(おお〜〜。と、場内納得の拍手が巻き起こる)

永戸→向井・三栖
永戸:「僕は最初に話もらったときに、ナンバーガールを見て好きだって言ったんだけど、それは神経症の犯罪者の絵にソックリだったからなんですね」(向井氏を初め、場内爆笑)
永戸:「それが重要なんですよ。犯罪者達の描く絵がすごい好きな絵なんです。それは狙ってるのか、狙ってないのかわからないけどそこが一番デカイですね。印刷物になったときの三栖さんの仕事は『ファンクラブ』のチラシを見たときに、狙ってるんだろうけど、その狙いの方向が好きだ、っていうのがありました」
向井:「我々は『音楽があって、アートワークがある』ということでやってるんだけども、アートワークの部分で注目してもらって、そして永戸さんと共通するものがあると、いうことでイベントをやってもらったっていうことは、俺は嬉しかった。それに実際、永戸さんのやってることを見て確かにビリビリくるものがあったんですね。それがよかったですね。実に」

逆質疑応答
お客さんからの質問ではなく、向井から観客に「ナンバーガール以外で好きなアルバムジャケットはなんですか」との質問。各々、観客が好きなジャケットの話などする。「ベック」「キングクリムゾン」「レディオヘッド」などなど。
向井:「おまえは最近なにが好きなん?」
三栖:「最近、近い感じでムカついたのがfOULの新しいアルバム」
三栖一明、坂本商店のジャケットデザインを担当している石川兄貴のアートワークに、対抗意識を燃やしているらしい。
三栖:「センス的なところに…それ…ムカツク…チクショー!」
向井:「確かにあれは素晴らしい」
アコースティックライヴ
ギター弾きでもある永戸鉄也&向井秀徳のギターセッションによる「無常節」
向井氏弾き語りの「NUM-AMI-DABUTZ」「DESTRUCTION BABY」の合計3曲が演奏された。

トークショウ終了
ファンと少々交流しつつ、終了。さすがにチケット争奪戦をくぐり抜けてきた猛者達は、漫画家やイラストレーター、デザイナー、司法試験を受ける武道派学生、2ちゃんねらー、感想画のパンの人…、などキャラクターが濃い人が多かったように思われます。